この4−5年ではないだろうか。食べ過ぎることの心理に関する研究が増加し続けている。論文を組織的に整理しているのだが,絶句するほどの数だ(タイトルの数をみるだけで読もうとする気持ちが萎えてしまう)。
最近,大学院の授業で学生と一緒に読んだ論文を一つ紹介する。くだいて説明する。ダイエットに励んでいる人とそうでない人がいる。両者を実験室へ招き,一瞬(25msということなので実際には「見えない」)食べることの楽しみ・喜びを喚起するであろう言葉を提示する。例えば「おいしい!」といった言葉だ。それに続いて,「ダイエット」「やせる」などの言葉あるいは無意味綴りを提示する。こちらの方はしっかりと明示され,実験参加者には意味のある言葉には反応キーをおすことを求めている。つまり(表面上は),意味のある言葉かどうかの識別実験だ。
結果をみてみる。ダイエットに励んでいる人は,そうでない人と比べて,「ダイエット」という言葉に対する反応が一瞬遅くなる(反応潜時が長くなる)。
この一瞬の遅れはどのように説明されるのだろうか。まずわれわれの認知活動には容量制限がある。なにか一つのことを考えていると別のことを考えることはできない(少なくとも難しい)。ダイエットに励んでいる人は「ダイエット」のことばかり考えている。それ故に,通常の状態ならば,「ダイエット」という言葉をきくと直ちに反応する。(実際の実験結果をみると,コントロール条件ではそのような結果が得られている)
ところが,25msというごく短い時間(意識することはまったく不可能な)でありながら「おいしい!」という言葉を見せられてしまった。無意識の知覚(そして認知プロセス)が喚起されてしまい,頭の中で,「ダイエット」の敵である「おいしく,楽しく食べる」ことを考え始めてしまったのだ(これも無意識のうちに)。認知活動の容量に制限があるが故に,「ダイエット」のことは相対的にあまり考えなくなった。それ故に「ダイエット」という言葉に対する反応が一瞬遅れてしまった,というものである。
ダイエットと反ダイエットは拮抗する力関係にある。頭の中では,反ダイエットがダイエットを押し込み,「ダイエット」から「食べる,おいしく食べる」という認知活動が優位にたってしまった。ダイエットについては「今は」考えたくない。そのような認知状態にあるから,「ダイエット」という言葉に対する反応が一瞬遅れてしまったという説明である。
きわめて理論的,典型的な心理学実験だ。演繹的思考から仮説を導き,それを実験で証明する。結果は(当然)統計処理がおこなわれ,「有意」である。論文も起承転結の構成でうまくまとまっている。あれこれでてくる疑問も今後の「経験的検証」が可能なものばかりであり,研究の発展的展開が十分に予想される。まさに優等生的論文といえよう。JESPというAクラスの学術誌に掲載されていたのだが,それにふさわしい論文といえる。
Stroebe, W. and et al., Why dieters fail: Testing the goal conflict model of eating, Journal of Experimental Social Psychology 44 (2008) 26-36
この実験は,認知心理学領域ではおなじみのプライミング(一瞬の無意識下での刺激提示)の技法を用いたものである。「うその心理学」でおなじみの,サブリミナル実験だ。
わからないことは,どうして視覚刺激を用いなかったのかということだ。事前に刺激を決めておく操作は必要だが,トンカツ好きの人にはトンカツを,カレー好きの人にはカレーの画像を提示し,「食べる意欲(動機)」を高めて,同じ課題を行わせる方がもっとはっきりとした結果が得られただろう。さらに,反応時間のようなものではなく,単純な計算をおこなわせるといった課題の方がもっと明瞭な差異が得られたような気がする。(考えてみれば,この実験は空腹感という動機の統制をしていない。この問題は大きい)。
さて,「ダイエット」をしている人にとっては,反ダイエット思考が頭を占領した時が怖い。待っていました!とばかり,食欲が喚起され,持続し,食べ過ぎてしまう。食べ続けている限り「ダイエットについて考えること」をせずにすむからだ。結果として食べ過ぎてしまう。なにより怖いことは,不規則,不定期に「食べ過ぎる」ことは体重増加(脂肪として蓄積される体重)に直結してしまうことだ。(スイーツ好きの「女子」は,不規則,不定期に「カロリーをとり過ぎる」が故に,ふだんあまり食べなくとも「生きて」いけるのだ。)
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心理学の「教師」とすれば,このような論文をお手本に,学生指導をすることが理想的だ。ただ,心理学の「研究者」とすれば,このような「デキスギ君」のお仕事にはあまりおもしろみを感じない。デキのわるい研究者のひがみなんだろうが。。。

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