書評の最近のブログ記事

 昨年一年間,月一回ほどのペースで新聞の特集記事に短いコメントを書いていた。日本の食の変化を追いかけるという特集記事。限られた期間(日数)で,限られた文字数で,編集担当の方(ということは読者)を納得させ,当然のことながら自分自身も納得できるコメントを書くという経験は,それなりにおもしろいものであった。

 本体である特集記事の内容はしっかりとしており,いい企画だったなぁと振り返っていた。

 それが,なんと,とある出版社から出版されるとのニュース。
 新聞記事(さらにそのコメントとなると。。。)のほとんどは消えていく。雑誌同様の,読み捨ての世界だ。これが「残る」となるとうれしい。6月には書店に並ぶらしい。

 (きっと)いい本です。その時は宣伝をします。

 ちなみに「心理学検定・キーワード集(仮題)」もその頃にでる予定。すでに校正に入っているが,私の担当箇所については,そこそこのデキかと思っている(60点は欲しいな)。全体のことはまだわからないが,しっかりとしたものになっている気配がする(編集担当の人の様子から推察)。これも,いい本になるかもしれない。

 ということで6月になれば,わたしが(部分的に)からんだ新書と心理学テキストが出る予定です。どうぞお楽しみに。

 *4/21: 読み直していると誤解されそうだったので,本文を一部修正。出版される本体部分は特集記事であり,コメントはそれにつけ加わる一部分。しかもコメント執筆者は複数いるのだから,「あれ,こんなところに名前が出ている」という程度になるはず。

 「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書,2007)の大ヒット以来あちこちでひっぱりだこの福岡伸一氏による「生命と食」(岩波ブックレット,2008)を読んだ。話しは後半ぶれるのだが,骨子は比較的簡単。シェーンハイマーの実験とそこで発見された「動的平衡」(と彼が名付けた)という現象を紹介し,そこから食の意味について考えるという内容だ。最後のあたりできわめてわかりやすい例を引いているので,そこの部分を引用する。

---------------
生命は,絶え間なく分解と合成を繰り返す,ダイナミズムの中にあります。鴨長明は『方丈記』に「ゆく河のながれは,絶えずして,しかももとの水にあらず」と書きましたが,まさに生命は川のような流れの中にあり,この流れを止めないために,私たちは食べ続けなければなりません。(p.60-61)
--------------

 以前から気にはなっていたを少し調べてみることにした。シェーンハイマーが本当に「動的平衡」ということを述べていたのだろうか。また,さも著者がこの「埋もれていた真実」を発見したかのような記述の仕方をしているのだが,果たしてどうなんだろう。

 ネットの「海」を泳ぎ出すと,次から次へと私の問いへの回答がでてくる。

--------------
 「生物と無生物のあいだ」においては、個々の記述は正しいものだとしても、実際の学問の姿が公平な態度で伝えられていない。福岡は、シェーンハイマーの埋もれた発見を自分が再評価した、というようなストーリーを作り上げるために、現実を歪めて描き出してしまっているのである。(http://a-gemini.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/2_065a.html, 福岡伸一批判 「生物と無生物のあいだ」を中心に(2)より)
-------------
 私は、福岡が「動的平衡」という言葉をシェーンハイマーが生み出したものとしては書いていたこと、シェーンハイマーに対して科学界から忘れ去られた「悲劇の天才」という劇化を行っていること、を指摘した。/ このことも思い合わせると、福岡が対象を描くときの公平さに疑いの目を向けざるを得ない。/ 率直に言って、私は福岡の誠実さを信じることができないのである。(http://a-gemini.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/vs_5_9a12.html, 福岡伸一 vs. ダーウィニズム(5)より)
------------
この本読んでて私が一番許せなかったことというのは、「動的平衡」とかの言葉をまるで新鮮な概念でもあるかのように言っておきながら、50年前の、量子力学完成直後に現れたデルブリュックやボーア、ウィーナー、そして理論生物学において非常に重要な仕事をした(そして52年の二重らせん発見直後、不自然死する)数学者であるチューリングとフォン・ノイマンのことを、一切どこにも書いていないということ。どこ探しても、チューリング・モデル、や、反応拡散系、自己増殖オートマトンの話、まったく無視されてる。(http://elangel.exblog.jp/9912630/, 「生物と無生物のあいだ」・酷評 2/2より)
------------

 基礎生物学というのだろうか理論生物学というべきなのだろうか。そこからは,すさまじい批判の矢が放たれている。少し長い,つぎのような記事もある。

------------
しかし、いくらかでも熱力学や化学の知識を持つものなら、福岡の「平衡」という言葉の使い方に疑問を持つだろう。
熱力学的な意味での「平衡」とは何か。それは、エントロピーが最大に達した状態、熱力学的な駆動力がゼロの状態である。これは、生物で言えば死んだ状態のことである。これでは、福岡の「動的平衡」とは合わないだろう。
 それでは、化学的な意味での「平衡」とは何か。化学では、化学平衡のことを動的平衡と呼ぶ場合がある。化学平衡とは、反応は起こり続けているが、進行する反応と逆向きの反応とがまったく同じ速度で起こっているため、系の化学的性質に変化が起こらない状態である。つまり常に動いていながら、どこにも変化していかないという状態である。(*1)これは一見福岡の「動的平衡」と同じものに思えるが、落ち着いて考えれば似て非なるものだと分かる。生体内における化学反応は、多くの場合一方向に進んでいるのであり、状態が変わらないように見えるのは、物質が外から流れ込んでくるからである。このような状態は、通常、「平衡」とは呼ばず、「定常状態」という。
(http://a-gemini.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/2_065a.html, 福岡伸一批判 「生物と無生物のあいだ」を中心に(2)より)
------------------

 この匿名ブログの書き手によると「動的平衡」は「定常状態」という表現でかまわないようだ。

 さてここで思いっきり福岡氏に加担して彼のもっともいいたいことを私風にいうと,「生物は機械論的説明では説明しきれない。なぜなら,機械そのものが常に作り替えられているのだから。その作り替えるという作業は機械(分子)では説明されえない『神秘』の力,『神』の力というものを仮定せざるを得ない」となるが,少々強引,あるいは無茶苦茶だろうか?(氏は,無論,そこまでは記していない)。

 「食べ物があなた自身を造る」という部分についての反論,批判は発見できなかった。

 結局は,生気論者ということなのだろう。分子生物学という「仮面」に相当まどわされたが。。。

 時間がないのにタイトルに惹かれ(このようなタイトルに惹かれるのも困りものだが),読んでしまった。三浦展は,団塊世代分析から最近では「下流社会」という言葉を発信したことで有名。芸達者,頭の回転がはやく言葉がつぎつぎ出てくる人。
 教員のみなさんに推薦します。カタルシス効果あり。「バカ」「バカ学生」という表現が頻出します。学生の皆さんにとっても,おもしろいと思いますが。。。
 若者論:メルトモとミクシーなれした「大人免疫力」のない人達。それ故に,「大人」社会に入ると,簡単に「折れて」しまう。そうだと「大人」も困るので,「ほめる」。彼らは「ほめられる」ことに慣れているというか,それがbasal基準になっている(だから,本当にほめる時は,思いっきりほめないといけない。
 若者論:対立を避け「ほめあう」ことがbasal基準。これは,いじめ教育の反動か,自らがいじめに合わない為の防衛策なのか,いずれにせよ,習慣化,くせになっている。(「大人」からみれば,という話し)
 親子論:親による子の「ペット」化。逆も真で,子も親の「ペット」のままでいる方がいごごちがよい。で,突然にリード,首輪がはずされる。立ち往生せざるをえない。それが「フリーター」だ,という論理。うぅんん。。。うまいなぁ。
 大学論:日本の大学の8割,9割はもうダメ。すでに学問(およびそれに足場をおく教育を)放棄,崩壊中。
 経済論:大学進学率が50%を超えると言うことは,平均世帯所得が平均以下の世帯の子供らも大学へ進学していると言うこと。数字的に考えていくと,あり得ない話しになっていく。結果として,世帯の貧乏化(貧困化)が進行,さらに「どこでもいい」と入ってきた大学も,「教育困難児」を抱え込みなすすべがない。卒業生はフリーター化していく。。。Anybody OK!の大学が,結局のところ,下流社会階層を増やしていく,という論理。
 ということで,本当は相当に暗い話しを,軽快なピッチと物怖じしない表現でピシッと書いている本です。年100回ほどの講演で2000万を稼ぐ人らしいですね。たぶん,そこでしゃべっている話しを口述筆記でまとめさせたような印象です。

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうち書評カテゴリに属しているものが含まれています。

前のカテゴリは心理学雑記です。

次のカテゴリは東京です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.21-ja